江戸しぐさ

最近、傘かしげ、こぶし腰浮かせ、といった江戸時代の人々の暮らしの知恵を紹介した「江戸しぐさ」のポスターなど(注1)を見かけますね。つい最近、この江戸しぐさについて書いた本(注2)を読みました。

江戸は文化文政時代に人口100万人という世界一の大都市であり、庶民の住む下町は人口密度が今の東京の数倍という密集した町でした。人と人の肩が触れ合うような暮らしの中で、不特定多数の人々との人間関係を円滑にするためのノウハウとして「江戸しぐさ」が生まれました。礼儀正しく、しかもプライバシーは侵さない。その基本は相手を、特に弱者であればなおさらのこと、尊重する精神にあります。現代の殺伐とした社会とは大分違うようです。

「傘かしげ」などは立ち居振る舞いに表れた江戸しぐさですが、「時泥棒」ってご存知ですかね?連絡もなく突然に訪問することだそうです。商人は特に時間刻みで商売をしていたので、アポなしで訪ねてきて勝手に相手の時間を奪うような行為は特に禁じられたとのこと。時は金なりとも言いますが、それ以上に過ぎた時間は取り返しがつかないからだそうです。今で言うと、会社や自宅にかかってくるマンション販売の電話なんか、まさにそれですね。

落語の人情話の根底にはこういう「江戸かしげ」の精神が息づいているのでしょうね。

                                             百人

注1: http://www.youtube.com/watch?v=PuFizpUhrhk
注2: 「商人道『江戸しぐさ』の知恵袋」越川禮子講談社α新書)